〜腰椎椎間板ヘルニアについて〜
・本記事から得られるもの、理解できる事
〇「腰椎椎間板ヘルニア」について理解できる
〇ヘルニアだとしても、運動が大事だと分かる
それでは始めていきましょう!
こんにちは、Basisの新田です。
今回は腰痛についてという記事を深掘りするような形で、皆様が良く聞く病名の1つである、腰椎椎間板ヘルニアについて少しでも分かりやすく伝わるように記事を書いていけたらと思います。結論としてはヘルニアにおいても運動が1番ということになるのですが、手術を検討した方が良い場合が存在するので、今回の記事を参考にしていただけると幸いです。
初めに皆さんにお聞きしますが、~~ヘルニアと言う病名の「ヘルニア」という部分がどのような意味を持っているか知っていますでしょうか。語源を知っておくと鼠経ヘルニアなど他の疾患についても意味が分かるようになると思いますので、簡単に解説していきます。
ヘルニアとはherniaと表記し、語源は脱出を意味するラテン語であり「臓器や組織が何らかの原因で弱くなり出来た体内の裂け目・孔(あな)を通って、本来の位置から脱出している状態」を指す言葉です。
つまり、腰椎椎間板ヘルニア=腰椎の椎間板が本来の位置から飛び出した状態という意味になります。上記に書いてあるような鼠経ヘルニアであれば、鼠径部にある何か(例えば、腸管や脂肪など)が本来の位置から飛び出した状態という意味になります。このようにヘルニアという言葉を知っておくと他の病名にも応用できるので、病気を理解するのに便利だと思いますので簡単に解説させて頂きました。
それでは本題の腰椎椎間板ヘルニアについて解説していきたいと思います。まず腰椎椎間板ヘルニアとは、上記に書いてあるように椎間板が突出する病気です。そして、椎間板の後方にある神経を圧迫することで腰痛を引き起こす代表的な疾患の1つであり、主な症状としては片側優位の痛み・しびれ、間欠性跛行(しばらく歩くと足の痛みやしびれで歩けなくなる)、馬尾障害(残尿感・排尿遅延・便秘など、殿部の感覚消失・鈍麻)、筋力低下が挙げられます。
感覚の鈍麻や筋力低下が生じる部分はヘルニアの高さによって変わってきますが、代表的なのは大腿前面から内側にかけての感覚鈍麻と大腿四頭筋(膝を伸ばす筋肉)の筋力低下、下腿前面の感覚鈍麻と前脛骨筋(足首を起こす筋肉)の筋力低下が生じやすいと言われています。好発年齢としては、20歳代~40歳代までと幅広く活動性の高い男性に多いと言われています。また、ヘルニアの形態的分類(飛び出し方による分類)は膨隆型(bulging)、突出型(protrusion)、脱出型(subligamentous extrusion/transligamentous extrusion)、遊離脱出型(sequestration)などがあります。
1つの論文によるとヘルニアは自然経過で寛解することが報告されており、経過は主に3群に分けられ、3ヶ月~6ヶ月で急速にヘルニアが縮小するパターン、6ヶ月~12ヶ月かけて徐々に縮小するパターン、1年以上経過してもほとんど縮小がみられないパターンがあります。このような経過の差はヘルニアの形態が関与しており、膨隆型は縮小しにくい傾向にあると言われていますが、基本的には1年以内に自然縮小すると報告されています。
そして別の論文によるヘルニアの自然退縮メカニズムでは、ヘルニアの基質内に血管新生と多数のマクロファージ(細菌やウイルスなどを分解する作用がある)を中心とした炎症細胞の浸潤が確認されています。簡単にどのようなことが起こっているかというと、ヘルニア組織が硬膜の外に脱出することで、身体はヘルニアを異物として分解するような反応を示すようになります。
少し細かい生理学でも解説していきしょう。硬膜外にヘルニアが脱出すると血管新生作用のある因子IL-1・8(InterLeukin-1,8)が発現して新生血管が増生しマクロファージが浸潤する→椎間板細胞とマクロファージが接触することで、炎症性サイトカインであるTNF-αが発現し、MMP-7(Matrix MetalloProtease-7)により細胞を表面で切断しヘルニアを遊離型にする→遊離型になったTNF-αがVEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)を誘導しさらに、血管新生を促進して炎症性細胞の浸潤を増強する→細胞外マトリックスの分解能を有するMMP-3を誘導・活性化することでヘルニアが退縮していくというメカニズムが考えられています。
図1.ヘルニアの自然縮小メカニズム
ここまで難しい言葉が続いてしまったので、簡単にまとめていきます。①ヘルニアは片側の痺れや筋力低下が主な症状である②ヘルニアは基本的に1年以内に自然縮小が起こる③手術療法よりも保存療法を選択することが多いということがまとめになります。
以上までで保存療法が中心になることが理解できたかと思いますが、もちろん症状によっては手術を考えなければならない人もいます。(1)日常生活にも支障がでるほどの痛みがある(2)2~3ヶ月の保存療法で変化がない(3)尿閉(尿意があるのに排尿ができない)などの重篤な馬尾症候群があるなど、上記のいずれかに当てはまる人は手術療法を考慮する必要が出てきますし、罹患期間(今回で言えば、ヘルニア症状がある期間)の短さは手術後の成績に関わってきますので、万が一このような症状が当てはまる人は病院での診察を受けて下さい。
ここからはヘルニアに対しての運動・効果についてどのようなものがあるかを解説していきますが、これに関しては以前「腰痛について」という記事にも載せていますので、そちらも参考にして頂けると良いかと思います。
それでは論文を中心にヘルニアに対して効果的と考えられる運動を紹介していきます。腰痛体操として有名な運動法はWilliams体操とMcKenzie法と呼ばれる2つが主な運動方法として1930年代から用いられています。もちろん全ての方に以下の運動が用いられるわけではありませんが、現代の運動法の基礎になっているのは間違いないと思います。
図2.Williams体操
図3.McKenzie法の一部
図4.腰部脊椎安定化エクササイズ(ビッグ3)
図5.スタジオでの運動風景(ティザー)
実際に上記のような運動は私たちも用いることがありますが、痛みがあったり運動を試しても狙った部位と違う筋肉の反応が強くでてしまう人もいるため、適宜ピラティスマシンを利用して対象である筋肉への刺激を強調したり、手技を用いた筋緊張の適正化を行うことが先決だと感じることが多いです。
いかがでしたでしょうか。今回は腰椎椎間板ヘルニアという病気について書かせて頂いたため、普段よりも難しい内容になってしまったかと思います。この記事が少しでもヘルニアという病気を理解する手助けになれば幸いです。最後まで読んで頂きありがとうございました。
Basis~からだのメンテナンススタジオ~ 新田
参考引用文献
1)時岡 孝光,島田 公雄 他:腰椎椎間板ヘルニアの自然経過―MRI複数回撮像例の検討―:整形外科と災害外科 47:(3)1068-1073. :1998.
2)細金 直文,松本 守雄 他:腰部椎間板ヘルニアの診断と治療:医学のあゆみ236:(5)507-512. :2011.
3)伊藤 俊一 :腰椎椎間板ヘルニアの理学療法:Sportsmedicine 139. : 2012.
4)内田 淳正,中村 利孝 他:標準整形外科学 第11版:医学書院:525-531.: 2011.